せっかく就職した会社だけれど、業務の内容が予想していたのとは違い過ぎてとても続けていけないことがわかったから即日退職したところ、会社から損害賠償を請求されてしまったという話を時々耳にすることがあります。
このケースについて考えていく上では、2つの疑問を明確にしていく必要があります。
ひとつは「労働契約を交わして就職したのに即日退職ができるのかどうか」ということ、もうひとつは「即日退職をすることによって会社から損害賠償を請求される可能性があるのかどうか」ということです。
会社に一旦就職して辞めるからには円満退職を心がけたいものですが、どうやったら波風を立てずに即日退職ができるか、どういう辞め方をすると損害賠償を請求される可能性があるのかについて見ていきましょう。
即日退職すると損害賠償を請求される可能性も!
労働者というのは雇用側の企業よりも立場が弱いため、法律は労働者の権利を最大限に保護する姿勢を維持していますが、そもそも即日退職というのは可能なのでしょうか。
即日退職ということは1日だけ勤め先に出勤して翌日からは出社しないということですが、たとえ1日だけで辞めるにしろ、「退職したい」という一種ははっきりと直属の上司に表明する必要があります。
一番いけないのはバックレ、つまり2日目からは連絡もせずに無断欠勤してしまうことです。
バックレすると懲戒解雇の可能性がある
マナーの点から観ればバックレが良くないのはもちろんのことですが、2日目からバックレしてしまうと「懲戒解雇」になるリスクがあります。
懲戒解雇というのは会社が労働者に対して下す処分の中では最も重いものです。
会社が労働者との関係を打ち切る解雇には「整理解雇」「普通解雇」「懲戒解雇」の3種類があります。
整理解雇というのは会社の経営が不振であるなど、経営上の理由からやむを得ずに人員整理をし、何人かの社員を解雇するケースですから、いわゆる「会社都合の」退職という形に持っていくことができます。
普通解雇というのは労働者が労働契約で交わした債務を履行しない場合に使用者(会社)が労働者を解雇することで、重要な経歴を労働者が詐称していた場合や勤務状況が著しく悪い場合などに採択されることがあります。
普通解雇では30日前までに解雇予告を行わなければならないので、即日解雇をした場合でも30日分の解雇予告手当を労働者に支払わなければならず、さらに解雇理由証明書も交付しなければなりません。
懲戒解雇というのは労働者が企業の秩序を乱すような行為を行った時に使用者が一方的に労働者を解雇することをいいます。
懲戒解雇の処分を使用者が決断するためには長期の無断欠勤や業務妨害・職務規律違反などといった重大な過ちを労働者が犯していることが前提になります。
懲戒解雇では普通解雇のように30日前までに解雇予告を行う必要はありませんが、懲戒処分に先立って労働者に弁明の機会を与える義務があります。
一度懲戒解雇されてしまうと、先々転職活動をする際に履歴書に懲戒解雇を受けた事実を記入しなくてはならなくなり、就活では非常に不利になります。
懲戒解雇を受けた事実を隠すと経歴詐称になりますので、解雇処分を受ける場合にはバックレは避け、できるだけ懲戒解雇ではなくて普通解雇の方に持っていきたいものです。
バックレをすると最悪損害賠償を請求されることもある
懲戒解雇は一種のペナルティで、減給などの罰則がありますが、罰金の支払いを命じられる可能性のある損害賠償請求とは異なります。
懲戒解雇されても即日退職であれば減給されるのも1日分のお給料だけですが、損害賠償請求まで行くと罰金を科せられることもありますのでくれぐれも注意しなければなりません。
即日退職で損害賠償された人の具体例
損害賠償というのはよほどのことがない限り請求されることはありませんが、即日退職することによって雇用側が明らかな経済的ダメージを被った場合、雇用側は損害賠償を請求することができます。
平成4年のケース
例えば平成4年に東京地裁が損害金の支払いを命じたケースとしては、雇用先である A社がB社と結んだ契約を履行するために常駐担当者Cを雇用したにも関わらず、Cが即日退職したためにB社との京役を履行できずに契約が解約されたとします。
A社としてはB社と結んだ契約で得られるはずであった1,000万円がCの即日退職によって駄目になってしまったため、Cに対して損失の一部を補う200万円をCが支払う念書を取り付けました。
それにもかかわらず、Cが100万円の支払いを拒否したためにその履行を求めてA社がCを提訴しましたが、東京地裁では経費を差し引き、労務管理に至らない点があったことなども鑑みて、Cに70万円の損害金の支払いを命じています。
200万円が70万円に引き下げられた理由としては、A社がCを採用するにあたってCの人物や能力に関してほとんど調査しておらず、A社側にも不手際があったことが指摘されています。
美容院を経営している女性のケース
上記以外にも、美容院を経営している女性がAを雇用した当日にLINEによってAから即日退職の旨を伝えられ、シフトを組めなくなってしまったので翌日から突然4日間の休業を強いられてしまい、60万円の売り上げを失ってしまったというケースガあります。
こういったケースでは、従業員の債務不履行による損害が明らかですので、雇用側は従業員Aに対して損害賠償をすることができます。
経営者としてはAを雇用することによって当然利益が得られたはずなのに、Aが即日退職したことで売り上げを失ったわけですから、損害賠償を請求するのは当然の権利ということになります。
企業側が損害賠償を請求するためには
企業側が即日退職した社員に対して損害賠償を請求するためには、損害を受けた因果関係を立証できることが大切になってきます。
ですから、「自分が即日退職すれば明らかに企業側に損害を与える」という確信がある場合には、できるだけ円満退職の形に持っていく方が得策です。
即日退職しても損害賠償を請求されないためのポイント
即日退職をしても懲戒解雇されたり損害賠償を請求されたりしないためには、退職の意思をきちんと表明することが肝心です。
退職というのは、通常の労働契約では退職日の2週間前までに雇用側に伝えなければならないことになっていますが、労働者が「とにかく辞めたい」と言えば雇用側は労働者に労働を強制することができません。
ですから、辞めると決意したら退職届などで意思を表明し、出来るだけ穏便な形で退職するようにしましょう。
最初にメールか電話で上司に報告
即日退職となると勤務の初日に辞める決意を固めているわけですが、直属の上司にはその日のうちまたは翌日までにメールか電話で退職の意思を伝えるようにします。
退職の意思を伝えるのは口頭でも法的には有効ですが、マナーからいえば上司の了解が取れた後に退職届を作成して提出するのが本筋です。
会社に行って退職届を提出するのが嫌な場合には、郵便局から「内容証明郵便」として郵送します。
書留郵便はいつ、誰が誰宛に郵便を送ったかが分かる郵送方法ですが、内容証明郵便であればさらに「どんな内容の郵便を送ったか」が証拠として郵便局に保管されます。
ですから「退職届なんて受け取っていない」と言われてトラブルになるリスクを避けることができるのです。
メールで上司に連絡する方法
即日退職を決心したら、できるだけ早く直属の上司に連絡することが肝心です。
この連絡を怠ることによって懲戒解職になったり損害賠償を請求されたりすることにもなりかねませんので、注意するようにしましょう。
勤め先に行ってみて、「これは到底続けていくことができない」と感じるのは別に悪いことではありませんが、翌日から出社しないことを決めたのであればできるだけ早く退職の意思を上司に伝えることが大切です。
即日退社というと、時間的に言ってその日のうちに退職届を提出するのは不可能ですから、メールなどを使って退職の意思を伝えることが大切になってきます。
メールを送付する際には必ず上司にメールが直接届くようなメールアドレスに送ることが大切です。
会社の総合インフォメーションメールアドレスなどにメール送っても本人に届かない可能性があります。
メールの件名には必ず自分の氏名と「退職のご相談」という言葉を明記しておけば見逃されることがありません。
メールで退職の意思を表明する場合の例文を以下に挙げておきましたので、ぜひ参考にしてみて下さい。
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件名:退職のご挨拶(名前 ◯◯ ◯◯)
△△課の〇〇(フルネーム)です。
このたび、一身上の都合により◯月◯日をもって退職することになりました。本日が最終出社日となります。
本来であれば直接ご挨拶すべきところ、メールでのご挨拶にて失礼いたします。
在籍中はたくさんのご指導をいただき、また支えていただいたこと心より感謝しております。この会社で学んだこと、そして経験を今後に活かしていければと考えております。
最後になりましたが、貴社の今後のご活躍とご健康をお祈りしております。今まで本当にありがとうございました。
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まとめ
せっかく就職した会社なのに、即日退職するということはよほどの理由があるはずですが、無闇に即日退職してしまうと会社からペナルティを課せられる、あるいは損害賠償を請求されるといったリスクもありますので、その辺りをよく考えて退職方法を考えることが大切です。
現在の勤め先を円満に退職しておかないと次の転職先を探す際に不利になることもありますから、十分に注意しましょう。