退職交渉というのは、ある意味で転職先に就職するよりも難しいものです。
退職する意思を表明したのに「この時期は会社の繁忙期だから」という理由で退職願を受け付けてもらえなかった人も多いはずです。
退職を受け付けてもらえない場合にはどんな理由をつけたらいいのか、どんな風に交渉したらいいのかについて詳しく見ていきましょう。
退職の理由によっては交渉するのに難航することも
会社が正社員を一人雇用した場合にかかる研修費は500万円とも1,000万円とも言われていますが、せっかくこれだけの費用を社員教育としてかけても、入社して2、3年で退職されてしまうのでは会社としては採算が取れません。
ですから、研修が終わってまだ間もない社員が退職したいと言ってきても、会社側としては難色を示すのは当然です。
退職届を出す前には、直属の上司に退職に関する相談をするのがマナーですが、今止められてしまっては採算が取れないと上司が判断した場合には、退職を引き止められてしまう可能性が大です。
現状への不満を退職理由に使わない
せっかく入社した会社を辞めて他の会社に移りたいということは、「現在のポジションに満足していない」「労働条件がきつすぎて続けていけない」などといった具体的な理由があることがほとんどですが、上司に相談する場合には、会社に対する不満はあまり具体的に説明しない方が退職交渉がうまくいきます。
また、会社の仕事内容や現在置かれているポジションが入社する前に想像していたのとは全く違ったというわけで退職を希望するにしても、転職先の社名は口に出さない方が賢明です。
転職先が同業者の場合、社名をはっきり言ってしまうと退職交渉がこじれるだけではなくて転職先への就職が困難になる可能性さえあります。
会社にはそれぞれ、他社には知られたくない機密事項というものがありますので、それを持って他の会社に転職されるのは大きなマイナスになるわけです。
「違う業界の仕事をしてみたい」というのはポジティブな退職理由
現在のポジションに納得していないというわけではなく、実際に働いてみて自分は違う業界の仕事に向いていることがわかった、というのは角の立たない退職理由のひとつです。
「それなら希望の部署に配属させる」という提案を受けるかもしれませんが、このような場合に備えて「現在はインダストリアルデザインのお仕事をさせていただいていますが、本当はアパレル関係の業務に携わってみたかったことを実感しました」などと答えを用意しておくのも退職交渉に成功するひとつのポイントです。
「高収入の職場に転職したい」というのも正当な退職理由
「より高収入の職場に転職したい」というのは正当な退職理由ですから、本当のことを言えずに鬱屈しているよりは素直に上司に伝えてしまった方が気分がすっきりします。
この場合、上司が他の部署などと相談して「給与を上げる」と提案してくる可能性もありますが、ただ単に退職を引き止めるための虚言であるケースもしばしば見かけられますので、注意しなければなりません。
このような条件を持ちかけられて退職を思いとどまったとしても、一度退職の意思を表明した事実はくつがえすことができませんし、例え要望を聞いてもらって給与が若干上がったとしても、その分他の同僚や上司からの風当たりが強くなることも考えられます。
こうなると会社がひどく居心地の悪い場所になってしまうので、最終的には退職という結論を出す羽目になってしまうことがほとんどです。
有給休暇を消化したい場合にはどんな理由で退職交渉をするべきか
退職交渉というのはストレスが大きいものですが、自分のキャリアやスキルを活かせる好条件の職場にどうしても転職したい人は、ストレスを乗り越えてでも退職を勝ち取りたいものです。
退職自体にはそれほどの難色を示さない会社でも、退職前に残っている有給休暇を消化したい意思を伝えると、ガラッと態度が変わることがあります。
例えば来月いっぱいで退職するつもりだけれど、その前に20日間残っている有給休暇を消化したいと申し出たとします。
そうすると引き継ぎができる期間が短くなってしまうため、会社としては強行に引き止めにかかってくることがあります。
有給休暇消化は労働者の当然の権利
会社を退職することはかまわないけれど、退職前に有給休暇を消化するのを拒否する会社はありますが、もともと、有給休暇というのは「会社の許可を得ないと取得できない」ものではありません。
法律的な観点から言えば、労働者が有給休暇の取得を申請すれば、無条件で得られるのが有給休暇なのです。
有給休暇は雇用されてから6ヶ月以上勤務を続け、なおかつ全労働日の8割以上出勤していれば誰でも取得することができますが、有給を申請するためには定められた期限までに書類を提出しなければなりません。
申請期限に関しては「希望する有給休暇の開始日の前日」などと定めている会社が多いのですが、退職を決意したら早めに就業規則なので確認しておくといいでしょう。
退職届と合わせて有給休暇申請書を提出して、期日通りに退職したにも関わらず、後から振り込まれた給与明細を確認したところ、有給休暇であるはずの期間が欠勤扱いになってお給料から引かれていたという話も聞かれますが、これは労働基準法に反しています。
有給休暇を買い取ってくれる会社もある
退職までの日数が短く、引き継ぎなどのことを考えると到底有給休暇を消化している暇がない、という時に有給休暇を買い取ってくれる会社もありますが、これはごく少数派です。
有給休暇の買取というのは法律では言及されておらず、買取金額も定められていませんが、「月給を労働日数で割った金額」や「健康保険法に定められている標準報酬日額(退職後にもらえる失業給付金の日額と同じ)」などで買い取る企業が多いようです。
労働者が有給休暇の消化を希望しているにもかかわらず、会社がこれを無視して無理やり有給休暇を買い取った場合には、会社に対して「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課せられる可能性もあります。
退職交渉の理由が認められない場合には?
どんな理由をつけても退職をスムーズに受け入れてもらえない場合には、労働基準監督署で相談するのも一案です。
労働基準監督署に相談して解決するトラブルもある
労働基準監督署が退職を受け入れてくれない会社に対して法的な措置をとることはありませんが、例えば未払いの残業があり、このまま退職してしまうと残業代を払ってもらえないことが明らかな場合には、相談する価値があります。
残業未払いがある会社に対して、労働基準監督署は「是正勧告」をすることができます。
是正勧告というのは労働基準監督署によって出される警告書のことで、労働基準法に違反した行いをした会社に対して労働基準監督署は是正勧告書を出します。
是正勧告を受けた会社は6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金を課せられますが、これに従わないと書類送検になります。
会社側が退職交渉に応じてくれないという理由の裏に残業未払いなどの事実がある場合は、一人で悩まずに、必ず労働基準監督署に相談することが重要です。
退職代行サービスとは?
どうしても会社が退職させてくれないという場合には、「退職代行サービス」を利用する方法もあります。
基本的には、労働者には退職の自由が保障されているため、会社に退職する意思さえ表明すれば「辞められない」という事態は起こらないはずなのですが、労働者を執拗に引き止めようとしたり、退職を撤回させるために嫌がらせをしたりケースが一部の企業で見られます。
転職先も決まっているのに退職できないことで過度のストレスを感じる労働者のために、スムーズな退職を代行する業者が退職代行サービスと呼ばれるものです。
退職代行サービスが増加し始めたのは2018年頃のことで、まだまだ新しい業界ですが、一定のサービス料金を支払えば代行会社が現在勤めている会社に連絡を取って退職手続きを完了してくれます。
料金は3万〜5万円前後が相場で、安いとは言えませんが、精神的な負担を取り除いてくれるという点から言えば、そこそこにリーズナブルなサービスと考えられます。
ただし、退職代行サービスを利用することによって会社との間がこじれてしまい、会社側が感情的になって懲戒処分という手段に出るリスクが全くないわけではありませんので注意しましょう。
退職してすぐに転職することを考えている場合、転職エージェントを通して転職先を決めておけば、前の会社とトラブルがあってもエージェントがカバーしてくれます。
転職エージェントを通すことによって、自分が不利になるようなことを転職先の会社に吹き込まれるといったリスクがなくなりますので、安全に転職するためにはエージェントを使うのがおすすめです。
まとめ
ひとつの会社で働きながら、転職先を探すというのは時間的・精神的に大変なものですが、転職エージェントなどで転職の専門家にサポートしてもらえばストレスの少ない転職を実現することも可能です。
ひとつの職場を辞めることは就職するのと同じぐらい大変なことですから、単なる思いつきで退職や転職をするのはできるだけ避けるのが無難です。
どうしても現在の職場が合わない、将来のためのキャリアを積んでいけないと確信した場合には、数ヶ月かけてできるだけ穏便な形で退職できるような環境づくりをしていくことが大切です。
職場では日頃から上司や同僚と良好な人間関係を保ち、引き継ぎなどの際にも問題がないように仕事内容を整理する習慣をつけていけば、退職交渉もやりやすくなります。