会社に原因があってうつ病になった場合は、労災申請をしたいところです。しかし現実問題として、うつ病は実は労災認定されにくいといった点が見逃せないポイントとしてあります。うつ病になったことで労災申請しても、結果として認定を却下されてしまうことは意外とありがちなのです。
うつ病になった原因が会社にあるのなら、やはりその事実をしっかりと伝えたうえで労災認定をもらいたいですよね。
そこで今回は、うつ病は労災になるのかという点を踏まえながら、認定されるための条件や実際のところ労災として認められにくい現実的な問題を解説していきたいと思います。
うつ病の労災申請が認められる条件を知っておこう
うつ病の労災申請が認められるためには、しっかり必要な条件を満たすことが重要になってきます。まずはうつ病が労災だと認定されるための条件を知っておきましょう。
うつ病で労災認定をもらう3つの条件
うつ病で労災認定をもらうためには、以下の条件を満たして労働基準監督署が労災だと認める必要があります。
・労災だと認められる精神疾患がある
・精神疾患を発症した約6ヶ月前以内に業務内で心理的な負荷をかけられている
・業務外での心理的負荷やその他の要因によって精神疾患があったとは言えない
この3つの条件を満たしていない限り、うつ病は労災とは認めてもらえません。ちなみに1つ目の条件にある「労災だと認められる精神疾患」ですが、うつ病はこの精神疾患の対象として厚生労働省に認められています。
3つの条件を簡単に要約すると、うつ病を発症していて、それが半年以内に仕事によって受けた負荷によるものだと確実に証明されていることが認められるためのポイントになります。
仕事中の業務がうつ病の原因であるかどうかがキーポイント
うつ病で労災認定をもらうためには、「仕事が原因」でうつ病になっていることが認められる必要があります。これが労災認定をもらうための重要なポイントになります。
そのため、条件の3つ目を見ればわかる通り、仕事とは別の原因でうつ病を発症したことになっていると、労災認定はもらえなくなってしまいます。
仕事もきつい、確かに仕事でも心理的な負荷を与えられたかもしれない、でもうつ病を発症したのはもっと前にプライベートの人間関係で悩んだことが原因だった……となれば、残念ながら労災とは認められなくなります。
うつ病は労災認定されにくい?それはなぜか
うつ病になり、労災として認められるためには、前項で解説したような条件を満たすことが重要になります。このため会社で受けたストレスが原因でうつ病になった場合は、労災として認定されるかたちになります。
ですが、現実的な問題として、うつ病は労災認定されにくいという側面があります。それはなんぜなのでしょうか。まずはその実態から見ていきましょう。
日常のあらゆることがストレスになっている可能性がある
ストレス社会と言われる現代ですから、社会で生活している以上、人はさまざまな場所でストレスを受けています。仕事でストレスを感じるのはもちろんのこと、プライベートの人間関係、恋愛、家族間のストレス、ご近所トラブル、騒音、経済的な困窮など、とにかくストレスに感じることは日々の生活の中にたくさんあります。
このため、業務で受けた心理的負荷がうつ病の原因、と確実に決定することは意外と難しいのです。
確かに仕事ではストレスを感じていたかもしれないが、プライベートで悩みや問題を抱えていた場合はどうなのか、もともと軽い気分の落ち込みがあったところに仕事の忙しさなどの負荷が加わった場合はどうなのか……など、うつ病の原因は特定しづらいのが特徴的です。
このため「仕事でうつになり、労災申請したが認定されなかった」となることは意外と多い……という現実的な問題があるのです。
本人のプライベートな状況もかんがみて厳しく審査される
本人のプライベートの状況、環境の変化なども含めて、労災の審査はかなり厳しくなされます。それはやはり、うつ病の原因が業務内の問題にあったと確実に認める必要あるためです。
労災申請をして労基署に詳しく調べてもらうことは誰でも可能です。ですが、多くの人が見て明らかだと言えるような業務内の問題がない限り、労災とはなかなか認められないことも多いのです。
仕事でうつ病を発症したと思えば、労災申請して労働災害補償などをもらいたいところですが、うつ病の労災認定は条件クリアが厳しいという現実をまず知っておく必要があります。
職場での各種ハラスメントでうつ病に。労災になる?
近年、社会問題となっているパワハラやモラハラ、セクハラなどの各種ハラスメント。これらが原因でうつ病になったときは、労災として認められるのでしょうか。ブラックな職場で上司にこき使われ、人権を無視したような発言をされたら、パワハラで誰だって精神的に病んでしまうものです。
そんなときはうつ病の診断書を用意して、労災として申請したいところです。しかしこの各種ハラスメントが原因となったうつ病も、場合によっては労災として認められない可能性があるため注意が必要です。
うつ病の診断書のみでは労災認定が難しい可能性も
労災申請するときは、証拠の書類として診断書を労基署に提出します。また、他に事実を証明するような書類や物的証拠があれば、それもあわせて提出するものの対象になります。
ですが例えば、しつこくセクハラされたり、パワハラで人権侵害とも言える発言を何度もされたりするだけでは、判断材料となる証拠はなかなか提出できません。このため場合によっては、本人はそのハラスメントに苦しんでいたとしても、労災にはあたらないといった判断が下ってしまうことは少なくありません。
労災申請する際にはあらゆる証拠を押さえておこう
セクハラやパワハラ、モラハラなどが原因でうつ病になった場合は、特性的に労災として認められづらい部分があります。
このため労災認定されやすい状況にするためには、少しでも判断材料となりうるような資料・書類を提出することが大事なポイントになってきます。労災申請するときは、第三者である労基署が見ても「これは確実にハラスメントがあった」とわかることを基準に、資料をそろえるようにしていきましょう。
うつ病が労災認定されなかった場合はどうすればいい?
では実際のところ、もしうつ病が労災認定されなかった場合は、どうすれば良いのでしょうか。労災として認められなければ、当然、労働災害補償などを受けることができなくなります。休職のとき、退職のときに得られる補償や手当についてはよく理解を深めておきましょう。
労災認定されなくても休職・退職時は傷病手当金が受け取れる
労災認定がされないと確かに感情としてはとても悔しいものですが、労基署が労働災害ではないと判断したのなら、残念ながらその決定には従うしかありません。労災認定されなければ労災補償は受け取れないため、休職するときや退職するときは困ってしまいますよね。
そんなとき知っておきたいのは、傷病手当金という公的支援です。傷病手当金は、病気やケガなどで働けなくなった人に給料の補償をする制度になります。この傷病手当金は、労災認定されなかった場合も含めて、直接的に仕事が原因でないうつ病だったとしても、申請することで受給することができます。
労災認定されなかった場合は、この傷病手当金を受け取るようにしましょう。申請書を提出する際には、うつ病の事実について担当医師に意見書を書いてもらうことで、受け取れるようになります。
傷病手当金でもらえる額・受け取れる期間
傷病手当金で受け取れる額や受け取れる期間はどれくらいになるのかは、正直気になるところですよね。いくら入ってくるのか、いつまで受け取れるのかを知っておけば、生活の足しにするうえで非常に役立ちます。
うつ病で休職・退職した場合は、およその額として、もともと支給されていた給料の60%ほどが目安になります。25万円の給料なら、大体15万円前後の額になります。30万円なら20万円ほどが支給されます。傷病手当金の額は一律ではないので、自分がもともと仕事で受け取っていた給料から支給額を算出しておきましょう。
傷病手当金を受け取れる期間も決まっています。支給期間は最大で1年か6カ月の間です。
また、傷病手当金にも自立支援医療の制度で、医療費が安くなる支援を受けられる場合もあります。うつ病による休職・退職の場合、お金に困ることも実際に出てくるでしょう。そんなときのための公的支援はたくさんあるので、ぜひ利用を考えておきたいところです。
どうしても会社を許せず別で慰謝料請求をする人も
パワハラや長時間残業などでうつ病を患った場合、労災認定と認められなければとても腹立たしいものです。傷病手当金を受け取ることはできても、個人的に会社を許せない…という人はたくさんいるでしょう。
その場合、個人的に弁護士に相談することで、会社を相手取って損害賠償請求をする人も中にはいます。労災認定されるかどうかは別の話ですから、会社に対して訴訟を起こすことは個人の自由です。
なるべくであれば誰だって争いやトラブルは起こしたくないでしょうが、どうしても不当な扱いを受けて納得できないという場合は、損害賠償請求をするなどの方法も考えておきたいところです。その際の手続きについては、法の専門家である弁護士に相談する必要があります。労働問題について詳しい弁護士だと好ましいですね。
まとめ
うつ病は症状や原因がわかりづらい疾患だからこそ、労災認定はされにくいという特徴があります。会社から不当な扱いを受けてうつ病を患った場合は、労災申請をして労基署に調査を頼みたいところですが、必ずしも労災認定されるわけではないという現実は知っておく必要があります。
また、もし労災認定されなかったときの場合も含めて、傷病手当金などの公的支援の種類もよく知っておきたいですね。自分がとるべき行動や集めるべき資料や書類、相談すべき相手をしっかり見極めていきましょう。