「役員でもすぐに退職できるの?」
「どのような手続きが必要なの?」
このように考える役員の方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、役員の方でもすぐに会社を辞めることができるのか、また手続きの流れや注意点について説明していきます。
それでは見ていきましょう。
役員が会社を辞める手続きをする際、退職を使うのは間違い!正しい言葉とは?
一般の雇われている社員が会社を辞める場合、「退職」というワードを使用します。一方、役員が会社を辞める際は退職ではなく「辞職」というワードを使用します。
また、課長以上の役職者が会社を辞める際にも「辞職」が使用されます。
ただ、これは厳密な意味での言葉の違いですので、日常会話の中では「退職」を使っても問題ありません。
役員が退職する際の流れや手続きとは?退職金はもらえるの?
会社を退職する流れは、以下の通りです。
辞職したい旨を伝える
「辞表」を提出
後任決定・引き継ぎ
退職
このように、社員が退職する際とほとんど同じで、違いといえば会社に提出する書類が「退職届」か「辞表」かだけです。
役員の方が会社と結んでいる「委任契約」を解除するために辞表が必要となりますのでしっかり書いて提出しましょう。
役員の退職金について
退職しようと決めた際に退職金がもらえるかどうか気になる方も多いと思いますので説明していきます。
一般社員も役員も退職金の支払いについて法律で決められておりません。そのため、退職金の支給がない会社もたくさんありますが、ここでは退職金がある会社では役員への支給はあるのか説明していきます。
退職金の支給がある会社の場合、一般社員への支給は「退職金」ですが役員への支給は「退職慰労金」という名目で支給されます。
退職慰労金を受け取ることができるかどうか、また退職慰労金の金額については以下のような条件によって決められています。
退職慰労金支給の可否に関する条件:委任契約・退職慰労金の規定などは社内の規定に退職慰労金の支給が約束されていること
退職慰労金の金額:定款に記載されている金額、または株主総会の議決によって決定した金額
逆に「社内の規定にない」「株主総会で議決されない」といった場合には、退職慰労金はもらうことはできません。
退職金の計算について
退職慰労金の準備のある会社では条件を満たせばきちんと支給されるとわかったと思いますので、次は退職慰労金の計算について説明していきます。
退職金の上限金額は法律で定められておりません。そのため、退職慰労金はいくら支給しても良いということになります。
しかし、いくら法律で定められていないからといって社員・株主の手前、自分勝手な考えで決めることはできません。また、税務会計において退職金は「経費」として考えられるため、あまりにも高額だと必要経費とは認められないため会社の損害になりかねません。
そこで、用いられるのが以下のような計算式です。
「最終報酬月額」×「役員在任年数」×「功績倍率」=退職慰労金の金額
それぞれの項目の内容は以下の通りです。
最終報酬月額:辞める月の報酬
役員在任年数:役員として勤めた年数(継続年数ではない)
功績倍率:功績などを倍率にした値
また、退職金には税制において優遇制度が設定されており、退職慰労金も含まれています。
退職金の優遇制度に「2分の1課税の優遇」があり、所得税・住民税が退職金そのものへ課税されるのではなく「(退職金−退職所得控除額)×1/2=退職所得金額」で求めた退職所得に対して課税されます。
かなりお得になる制度ですが、役員として勤めた年数が5年以下の場合は、この2分の1課税を受けることはできません。
そのため、役員として勤めた期間が5年以下の人が退職すると所得税のことで損をしてしまうことを頭にいれておきましょう。
役員が退職する手続きタイミングはいつでもいいの?
役員には任期が定められているため、いつでも退職できないのではないかと思っている方も少なくないと思います。
そこで、役員の方が退職する際のタイミングについて説明していきます。
役員はいつでも退職できる
結論からいうと役員は辞めたいと思ったらいつでも辞めることができます。
役員には「任期」があるのではないかと疑問に思われる方もいるでしょう。
実際、役員には以下のような任期があります。
取締役:原則2年
監査役:原則4年
ただし、株式非公開会社は最大10年まで延長することができます。
つまり、上場企業では「取締役2年」「監査役4年」の任期があるわけですが、それでも任期を残して役員は辞めることができます。
辞めるためには、会社代表者や株主総会の承諾が必要なのではないのかと思う方もいるかもいしれませんが、どちらの承諾も必要なく辞めることができます。
役員がすぐに退職できないケースとは?
辞める意思を伝えるタイミングは社員と同じく自由に辞意を表明できますが、すぐに辞めることができない場合もあります。
退職することで法律・定款で定められている役員の人員配置規格を満たせなくなる場合にはすぐに退職することはできません。
そのため、もしそのような状態で退職したい旨を伝えても、以下のように法的に役員としての権利・義務が残ってしまいます。
「取締役会」の最低人数を下回る場合:取締役は最低3人必要ですので、1人でも役員が辞職を申し立て人数が3人を下回ってしまうと後任が決まるまで役員としての権利や義務が残ってしまいます。
「定款」で定めた役員数を下回る場合:会社運営の規則を定めている定款で決められている役員数を下回る際も取締役と同様、後任が決まるまで役員を退職できません。
「監査役」がいなくなる場合:取締役会を設置する場合には監査役も設置しなければなりません。監査役が決まるまで辞めることはできません。
「会計参与」がいなくなる場合:取締役会がある会社で監査役がいない場合には会計参与を設置しなければなりません。そのため、会計参与の後任が決まるまで退職することはできません。
このように、設置が義務付けられている役員の定員数が割れてしまう場合には後継者が決まるまでは会社を退職できませんので注意しましょう。
また、裁判所に申し立てを行い仮の取締役を選任してもらうテクニックもありますが、手間がかかってしまうためおすすめしません。
合同会社の場合
これまで説明してきた内容は株式会社の役員が退職するケースです。会社には、株式会社以外にもさまざまな形態があり、なかでも多いのがこれから説明する「合同会社」です。
「合同会社」は、会社運営に必要な資金を社員が出し合って設立しているため、会社運営者と持ち主が同じという大きな特徴があります。そのため、会社の持ち主が社員となり、この社員が株式会社でいう「役員」にあたるわけです。
特に定款で定めておらず「社員」が会社を退職する場合、事業年度終了時点で退職することができます。その際、退職日の6ヶ月前には退職したい旨を会社に伝えなければなりません。
ただし、以下のような場合には特例でいつでも退職することができます。
やむを得ない理由がある
総社員の同意を得る
合同会社の場合、株式会社と異なるので注意しましょう。
会社が役員の退職を認めない場合の対処法
退職できない理由は、会社側が役員の退職を認めないといったケースもあります。そういった場合の対処法を紹介します。
これまで説明したように、役員は会社の代表者や株主総会の許可がなくても退職することはできます。しかし、退職した後も会社が退任登記を行わないと役員としての権利や義務が残る場合があります。
退任登記とは、役員の方が辞めた際の登記申請のことで、辞めた日から2週間以内に本社所在地を管轄する法務局で行います。万が一2週間を大きく過ぎても退任登記が行われなかった場合、会社の代表者個人が100万円以下の過料の対象になります。
この退任登記を会社側が行わないと、退職したことを知らない人に対して退職したことを主張できないため、役員としての義務が残ってしまいます。
そのため、本人は辞めたつもりでいても何か問題が生じた際には責任を追求されますのでしっかり退任登記をしてもらいましょう。
役員の退任登記を完了させる方法は以下の通りです。
会社に対して登記申請をするように交渉する
起訴を起こす
登記変更は自分自身で行なえないため1番良いのは、会社側が快く退任登記を行ってくれることです。万が一行ってくれない場合には裁判所に対して取締役退任登記手続請求訴訟を起こして勝訴することで、自分で登記変更可能になりますが、費用や手間がかかりすぎてしまいます。
そのため、会社と交渉して登記変更をしてもらうようにしましょう。
役員が退職時に退任登記手続きを行わないと損害賠償にもなる?
取締役と会社との関係は、民法上の委任に関する規定に従うこととされており、民法651条1項に取締役はいつでも辞任により契約を解除することができるとなっております。
つまり、取締役を辞めたい場合、いつでも辞めることができるようになっており、会社の承諾がなくても辞めることができます。
ただし、民法651条2項に会社に不利となる時期に辞めた場合には損害賠償義務があると定められています。そのたえ、いくら役員の退職が自由だからといっても会社に損害を与えるような時期の退職はやめましょう。
しっかり引き継ぎや後任を決めてから退職するようにしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
役員の方が退職する際の要点は以下の通りです。
会社の代表者や株主総会の承諾がなくてもいつでも退職できる
退任登記をしっかり行わないと役員としての義務が残る
会社に不利になる時期に退職すると損害賠償を請求される
役員の方でも、会社をすぐに辞めることは可能ですが、その際には後任をしっかり決めて引き継ぎを行い、退任登記も行わなければいけません。
損害賠償を請求されるといったトラブルを避けるためにも今回紹介した注意事項を把握して退職手続きに進みましょう。