雇用主の立場だと、「面接の時好印象だったので雇ったが、態度が変わって仕事もサボる」「あまりにもほかのスタッフに迷惑をかける」「遅刻が多すぎる」という理由から、辞めさせたいアルバイトに出会うこともあるでしょう。
仕事ができないだけならまだよいですが、上記のような人はほかのスタッフの士気まで下げてしまいます。最悪の場合、「この人に迷惑をかけられるのは限界」と戦力になる従業員さえ失ってしまうかもしれません。
しかし雇用主として、また経営者としても不当解雇だけは避ける必要があります。不当解雇を訴えられると、お店の評判まで落ちかねないことを頭に入れておきましょう。
そこで今回は、不当解雇を避けつつ特定のアルバイトを辞めさせる方法についてご紹介。困ったアルバイト・パート従業員に、頭を抱えている経営者の方は必見です。
アルバイトであっても強制的に辞めさせるのは難しい
労働者というのは、法律上で手厚く守られています。これは、雇用主が立場を利用して個人的な理由で解雇したり(不当解雇)、給料を支払わないことがないようにするためです。
たとえ労働者が仕事に非協力的だったとしても、雇用主から強制解雇をすることはできません。アルバイトとしての雇用でも辞めさせるためには、労働基準法や民法に従って手続きを行う必要や正当な理由を提示する必要があります。
解雇理由は、当事者の主観でなく客観的にみて正当だと取られるものでなければならないので、「仕事をサボりがち」「ミスが多い」などの理由は通用しません。
バイトを辞めさせることができる場合
雇用主がアルバイトやパートを解雇するのは、客観的に見て正当な理由を用意する必要があるためハードルが高いです。しかし、以下のような場合は不当解雇になることはありません。
該当のアルバイト従業員に当てはまるものがあれば、手続きを進めることができます。
バイト店員から退職の申し出があった場合
これは1番多くあるケースです。基本的にアルバイトやパートは、雇用主に合意を得て退職するので、雇用主であればこれまでに何度も経験しているでしょう。
そして相手から「辞めたい」と申告されたら、その従業員がどれほど優秀だったとしても辞めさせなければなりません。もしあなたが「辞めてほしい」と感じている人から退職を申告されたら問題なく手続きを進められるので、1番平和的な解決法といえるでしょう。
職場に重大な損害を与えられた場合
アルバイトが起こした行動が、職場にとって重要な損害を与えた場合解雇ができる可能性があります。
例えとしてあげられるのは、店の備品を破損させた、ほかのスタッフへハラスメント行為を行ったなどです。現代は情報網が発達しているので、インターネット上で事実無根かつ評判を落とす書き込みをされた場合もこれに当てはまります。
ただし、インターネットに書き込んだ内容が事実な場合は、当然正当な理由として認められづらいでしょう。
リストラ
お店の経営が苦しくて、従業員を減らさざるを得ない状況でリストラした場合は、不当解雇にはあたりません。ただし、リストラしなければならない状況に陥る前にさまざまな対策を取った上で、それでも赤字が続いてしまったという事実があることが前提です。その上で、以下の条件も満たしている必要があります。
・解雇対象者の選び方が主観的でないこと
・労働者に解雇に至ったならびをきちんと説明していること
客観的に見て1番仕事ができない、またはしていない人をリストラするのは不当ではありませんが、お店の経営がうまくいっていないことが前提。特定の人を辞めさせるためにいつでも使える手段とは言い難いでしょう。
犯罪行為をした場合
お店の現金や貴金属・備品などを盗んだ場合(刑法251条横領罪)や、ほかの従業員または客へ暴行をはたらいた場合(刑法204条傷害罪)、わざと備品を壊した場合(刑法261条器物破損)など犯罪にあたる行為をした人の解雇は正当な理由があるとされます。
従業員がここまで深刻な犯罪を犯すケースは少ないですが、上記のような場合店の信用を落とす行為をしたということで、解雇が認められます。
経歴を詐称していた場合
面接時や履歴書の経歴を詐称し、入社した場合不当解雇にならない可能性があります。ただ学歴詐称をしていたとしても、刑法的な責任を取らせることはできませんが、大幅に詐称している場合、懲戒解雇できるケースは多いです。
特に採用時「高卒以下不可」などと定めていた場合、解雇の際こちらの要望が通る可能性が高いでしょう。
ただ、「雇い主が事前調査を怠った」もしくは「アルバイトの勤続年数が長い」ケースだと、学歴を詐称したことによる不利益が認められず、懲戒解雇自体が無効にされることもあります。
バイトを辞めさせると不当解雇になる場合
ここからは、辞めさせると不当解雇にあたるケースをご紹介します。以下の理由で解雇してしまうと、不当解雇を訴えられ損害賠償を請求される可能性も。
たとえ、相手から反省の色が見えなかったとしても軽率に「クビ」だなんて告げないようにしましょう。
仕事をミスしたことによる解雇
仕事をミスしてしまうのは、誰にでもあることです。人間なので、ひとりひとり得意不得意があるもの。中にはすぐに覚えてしまうような記憶力がいい人もいれば、なかなか覚えられない人もいるのは当然です。
従業員もわざとミスをしているわけではありません。多少のミスで安易に解雇するなんて告げないように気をつけてください。
雇用主ならミスをしないよう対策を考えたり、根気強く教える心の広さをもつことが大切です。
遅刻による解雇
ミスと同様に、多少の遅刻で解雇を言い渡すことはできません。完璧な人間はいませんから、たまには寝坊したりシフトを勘違いすることだってあるでしょう。もちろん雇用主のあなたも人間ですから、寝坊した経験をもっているはずです。
多少遅刻する程度でクビを言い渡すことは不当解雇にあたります。もしあまりにも遅刻してくるようであれば、相手の遅刻理由をしっかりとヒアリングしてみてください。この時決して感情的にはならないように。
原因を突き止めたら、相手と相談しながら開始時間を遅らせたり、朝が苦手なら夜のシフトに移ってもらうなど対策を取るとよいでしょう。
バイトを辞めさせる正当な手段とは?
たとえアルバイトやパート従業員でも、辞めさせるためには正当な手段を選ばなければなりません。冒頭でも触れましたが、正当な理由がない解雇は不当解雇にあたります。アルバイトやパートは正社員よりも手厚く守られているのです。
法的手段を取られれば、経営者にとって痛手なのは明白。リスクを避けるためにも、ルールに沿って手続きを行いましょう。
30日以上前までに予告しておく
解雇することを30日前までに予告しておくことで、不当解雇を免れつつ辞めさせることが可能です。
法的には口頭で伝えるだけでも問題になりませんが、解雇予告をしたことを可視化するために書面で残しておくのが一般的。その後「聞いていない」と主張され、トラブルになることを避けることもできるので、安心です。
解雇した際に、「解雇理由の証明書」を求められることがありますが、雇用主は必ず発行する義務があるので拒否しないよう気をつけてください。
解雇予告手当を支払う
労働基準法には、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」(第20条)と定められています。
要約すると、30日分の予告手当を支払うことで不当解雇を避けつつ、解雇することができるということ。
解雇予告手当は、解雇を予告しなかったことで、労働者が被る金銭的困窮をまかなうための手当です。いわば、唐突に辞めさせることになったお詫びのようなもの。
次の職場を探すまでの金銭的余裕が得られるので、労働者側のメリットも多く、承諾も得やすいはずです。比較的円満に解決することができるでしょう。
契約の更新をしない
たとえば、3ヶ月契約で雇っている場合、3ヶ月の契約満了で更新しないことで辞めさせることができます。これは雇い止めと呼ばれるもので、契約終了をしただけとされるため解雇にはなりません。
そのため過去に何度も契約更新されている場合を除き、正当な理由を求められる可能性も低いです。もし尋ねられたら契約満了ということを伝えましょう。
まとめ
アルバイトやパートは立場が弱い分、正社員よりも手厚く守られています。たとえアルバイトが仕事に対して誠実でなくても、強制的に解雇することはできません。正当な理由がなければ、不当解雇として損害賠償を請求されることも。
ただし、特定のアルバイトが職場の士気を下げているようなら、予告手当を支払ってでも辞めさせる方がお店にとって有意義な場合もあります。
たった1人のアルバイトが原因で、戦力になっている従業員まで退職してしまっては元も子もありません。この判断はむずかしいですが、結果的にメリットが多い方を選ぶとよいでしょう。
そして普段から「クビ」と気軽に言わないようにすることも大切です。本記事であげたような「正当な理由」があっても、まずはじっくり検討してみる必要があります。
損害賠償請求のリスクを負わないために不当解雇を避け、次回からは面接時の質問を増やしてみるなど、そもそもの対策も並行して行なっていきましょう。